本書でセンは、食糧の備蓄と飢餓の間には自動的な関連がないことを証明しました。もちろん食糧の供給量が減少することで飢餓はおきますが、そこに食糧があったとしても、食糧が届かない集団があることを明らかにしたのです。現在のバングラディシュのダッカ出身のセンは、インド大陸で起こった一連の飢餓を例にしながら、傷つきやすい集団に本来付与された諸権利が、正常に行使されないために起きた飢餓を分析したのです。
インドではイギリスからの独立以来、組織的に飢餓が回避されてきましたが、政治体制の非民主的な性質と飢餓の関係、例えば1958年から1961年の中国で起こった飢餓と当時の政治体制に関連があると分析しました。選挙の自由、報道の自由、発言の自由などを含む自由こそが、飢餓をなくすために責任を果たすことができるのです。本書ではこれらを「権原」、つまり権利の発生する原因という用語で説明しますが、上記のように権利という用語でも説明できそうです。
本書は1981年の刊行ですが、1985年に潜在能力(capability)という概念を提唱しています。栄養を摂る機能が十分に実現しているとか、自尊を持つ機能が充足しているといった、個々の機能も重要ですが、センは様々な機能の集合を潜在能力と呼びました。潜在能力とは、何ができるか、どんな状態になれるかなど、その人の選択の幅、選択の自由を表したものです。
重要な点は、個々の機能を高めることが目標ではなく、潜在能力を高めることを最終目標としたことです。これは飢饉ばかりでなく他の領域にも応用可能です。例えば俳優が舞台に立って演技をするには、セリフを覚え、明瞭な発声をし、役に合った表情・しぐさをしなければなりません。だから、そのための機能を高めることが求められます。しかしこれらの機能を高めることが最終目標ではありません。最終目標は現在の役をこなすことを含めて、別の役も演じられる俳優になることです。それには現在選択されていない機能4や5も必要になるでしょう。現在選択されていない機能も含むので、潜在能力なのです。
経済や政治は、効用や満足や利益ではなく、この潜在能力を高めることを目標とすべきです。そのために本書が提唱する権原的アプローチが重要になるのです。この変更は、個人の能力から社会的能力へ関心を移行させることでもあります。センは、経済成長より社会的正義を重視するスタンスにあるといえましょう。
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貧困と飢饉 単行本 – 2000/3/22
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本書は,20世紀に世界各地で発生した「大飢饉」の原因が一国レベルの食料総供給量の不足であったという通説を否定し,人々が十分な食料を手に入れ消費する能力や資格(権原=エンタイトルメント)が損なわれた結果であったことを明らかにした.著者の「不平等理論」の形成に大きな影響を与えた実証分析の成果である.
- ISBN-104000019244
- ISBN-13978-4000019248
- 出版社岩波書店
- 発売日2000/3/22
- 言語日本語
- 本の長さ348ページ
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商品の説明
内容(「MARC」データベースより)
飢饉の原因が一国レベルの食料供給能力不足にあるという通説を否定し、人々の食料に対する「権原」(エンタイトルメント)が損なわれた結果であることを実証する。講演「飢餓撲滅のための公共行動」を併せて収録。
登録情報
- 出版社 : 岩波書店 (2000/3/22)
- 発売日 : 2000/3/22
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 348ページ
- ISBN-10 : 4000019244
- ISBN-13 : 978-4000019248
- Amazon 売れ筋ランキング: - 230,274位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 1,269位経済学 (本)
- カスタマーレビュー:
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2019年2月16日に日本でレビュー済み
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センの思想が好きで購入しました。補論が訳されていないネックはありますが、センの従来の貧困観に対する批判的や見方や彼が打ち出す観点などは少しは読み取ることができたかなぁと思っています。
2007年3月29日に日本でレビュー済み
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この本はアマルティア.センが飢饉の問題が国の食料供給の不足にあったのではなく人々の権限が損なわれたからだという考え方を示し、それまでの食料供給量からその土地の人々の貧困を計測するのでなく、あくまでもその土地の人々が必要とする物資を手に入れるだけの権原からその土地の人々の貧困を調べるべきだという権原アプローチを提唱しています。
本書は現在の国際援助や穀物の世界的な投機化に対する一つの視点としても十分に役に立ち、経済学を専攻する学生や官吏にはどのような目的でどの変数に注目すべきかについて自覚的になるためにぜひ読んでいただきたいです。
本書のベンガル大飢饉の章におけるベンガル州知事の苦悩は誰に対しても起りうることだからです。
本書は現在の国際援助や穀物の世界的な投機化に対する一つの視点としても十分に役に立ち、経済学を専攻する学生や官吏にはどのような目的でどの変数に注目すべきかについて自覚的になるためにぜひ読んでいただきたいです。
本書のベンガル大飢饉の章におけるベンガル州知事の苦悩は誰に対しても起りうることだからです。
2022年11月15日に日本でレビュー済み
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"飢餓とは、十分な食べ物を持っていない人々を特徴づける言葉である。十分な食べ物がそこにないという状況を特徴づける言葉ではない"1982年発表の本書はアジア初のノーヘル経済学賞受賞者が途上国の購買力と飢餓の関係を説明、貧困は『生産力ではなく市場の失敗』であることを明らかにした古典的名著。
個人的には主宰する読書会の課題図書として手にとりました。
さて、そんな本書は引用した冒頭から始まり、ある社会において正当な方法で【ある財の集まりを手に入れ、もしくは自由に用いることのできる能力・資格】あるいは、そのような能力・資格によって『ある人が手に入れ、もしくは自由に用いることができる財の組み合わせの集合』を【権限】(entitlement)と名付け、この言葉をキーに『飢饉と貧困』を理解するための分析を行ったインドの経済学者である著者の【1970年代の発表論文や事例研究を集成した】もので。
著者はインド大陸で起こった一連の飢餓を例にしながら、世界各地で発生した飢饉の問題が『一国レベルの食糧生産、供給能力不足』と考えられていた当時の通説を否定し、食糧が国に十分にあっても『食糧が届かない集団が存在する』ことを明らかににし【食糧の生産量(備蓄)と飢餓の間には自動的な関連がないことを証明、むしろ【政治体制や市場の失敗に原因がある】と考察しているのですが。
まあ、アカデミックな批評は専門の方にお任せするとして。飽食の時代、フードロス削減に貢献!と毎日のように近所のスーパーの夕方以降の割引食品を手にする私ですが。じわじわとした物価高にはため息つくも、餓死といった【極限状態は考えていなかった】ので、あらためて飽食の豊かな国に生まれている幸せを感じたり。
また、経済の長期低迷や直近だと記録的な円安もあり、各国にくらべて『貧しくなった』と報道される我が国ですが。本書を読み進めながら、この貧しさは、やはり考察されているように政治体制、総量ではなく富の配分に関係があるのかな。それとも?と色々と考えてしまいました。
経済学、開発経済学の必読書として。またタイトル通り『貧困と飢饉』問題を考えたい方にオススメ。
個人的には主宰する読書会の課題図書として手にとりました。
さて、そんな本書は引用した冒頭から始まり、ある社会において正当な方法で【ある財の集まりを手に入れ、もしくは自由に用いることのできる能力・資格】あるいは、そのような能力・資格によって『ある人が手に入れ、もしくは自由に用いることができる財の組み合わせの集合』を【権限】(entitlement)と名付け、この言葉をキーに『飢饉と貧困』を理解するための分析を行ったインドの経済学者である著者の【1970年代の発表論文や事例研究を集成した】もので。
著者はインド大陸で起こった一連の飢餓を例にしながら、世界各地で発生した飢饉の問題が『一国レベルの食糧生産、供給能力不足』と考えられていた当時の通説を否定し、食糧が国に十分にあっても『食糧が届かない集団が存在する』ことを明らかににし【食糧の生産量(備蓄)と飢餓の間には自動的な関連がないことを証明、むしろ【政治体制や市場の失敗に原因がある】と考察しているのですが。
まあ、アカデミックな批評は専門の方にお任せするとして。飽食の時代、フードロス削減に貢献!と毎日のように近所のスーパーの夕方以降の割引食品を手にする私ですが。じわじわとした物価高にはため息つくも、餓死といった【極限状態は考えていなかった】ので、あらためて飽食の豊かな国に生まれている幸せを感じたり。
また、経済の長期低迷や直近だと記録的な円安もあり、各国にくらべて『貧しくなった』と報道される我が国ですが。本書を読み進めながら、この貧しさは、やはり考察されているように政治体制、総量ではなく富の配分に関係があるのかな。それとも?と色々と考えてしまいました。
経済学、開発経済学の必読書として。またタイトル通り『貧困と飢饉』問題を考えたい方にオススメ。